1.はじめに
近年ごみ処理に係る多数の問題が巷間に取り上げられている。ごみは人間の生活にともなって生じる不要物であり,近年になって発生したものではない。「ごみの問題」は,近年になってごみの発生量が急激に増大したことと,自然界へは還元しにくい物質がごみとして排出されるようになったことにより,人の手を加えることなく,あるいはわずかに加える程度では自然界に還元できなくなってしまったところにある。
ごみ処理問題を原点から考察すれば,対策の基本はごみを減すことにあり,国を挙げて,ごみとなるものを創らず,再利用できるものは極力再利用する方向で“ごみの減量化”に取り組んでいるところはここにある。そしてごみとなった可燃物についてはさらに焼却して灰にすることにより最終的なごみの減量化を図っている。
一方,エネルギーの有効利用の観点から“ごみの燃料化”の動き,即,ごみをエネルギー資源と位置付けて定常的に利用しようとする動きもある。これについては「減量化」との調和のとり方等が問題注1となっている。
いずれにせよ可燃性のごみは,焼却し灰にして減量することになる。
それゆえ,本中間まとめでは,分別・集積以降の処理として「焼却」と「埋立て」の処理,および処理施設について検討を加える。
ごみの減量 |
⇒ごみを創らない
⇒再利用できるものはごみから除外
リターナル物
再生利用物(紙・PET)
生ごみ → 堆肥 |
不燃物 |
⇒埋立て処分 |
可燃物 |
⇒焼却し灰にして減量 ⇒埋立て処分
「埋立る焼却灰」を
⇒さらに減量・資源化
=灰の固化利用(封入固定・溶融スラグなど) |
主たる燃料源としての利用は,“ごみ減量化”に逆行する危険性あり。
燃料としての安全性及び安定供給を確保した上で経済的なバランスを確保できるか。
2.循環型社会を目指した廃棄物処理・処分の方法
<“ごみ減量”・“自分のごみは自分で処理”>
原則(望ましい姿)
・再利用・有効利用できるものは利用し,最終処分(埋立て処分)に到る量を最小にする。
・地域内で完結する(埋立て処分まで行う)施設とする。
・隔離型(めいわく)施設ではなく,居住空間に融和できる施設とする。
2−1 現在使用できる可燃物処理の施設
CaseT(焼却を主体とする場合)の施設
T−A |
<焼却のみ>
焼却炉+埋立て処分場(焼却灰)
|
T−B |
<焼却+α> |
|
−1 |
焼却炉+溶融スラグ生産+埋立て処分場 ・・埋立て処分量削減
(溶融スラグ・熔融金属・ダストetc.ができる) |
|
−2 |
焼却炉+蒸気発電+埋立て処分場 ・・・・・廃熱の有効利用 |
|
−3 |
焼却炉+温水供給+埋立て処分場 ・・・・・廃熱の有効利用 |
CaseU(エネルギー資源としての利用を主軸に据える)の施設
U−A |
<燃焼熱直接利用>
|
|
−1蒸気発電 |
|
−2温水供給 |
U−B |
<固形燃料化(RDF)> |
|
−1 |
RDF施設+自前の発電所施設+埋立て処分場 |
|
−2 |
RDF施設+燃焼施設(対策済)の開拓(+最終処分場) |
U−C |
<燃料ガス化> |
|
−1 |
熱分解ガス化(溶融)施設・ガス発電施設+埋立て処分場 |
なお,焼却炉はダイオキシン対策のため24h運転となる。また,溶融スラグ生産にはコークス等による溶融やガス化溶融等いくつかの方法がある。
2−2 可燃物処理の施設の検討
“ごみの燃料化”(上記のCaseU)は日本のエネルギー事情等を考えると,一つの選択肢ではある。しかし,それぞれに以下のような問題点があり,現段階では具体的な検討対象施設には加えなかった。
・発電を主体とするU−A−1,U−B−1
@「ごみ」は一般的な燃料として扱うわけにはいかない。燃焼施設には焼却炉等と同等の排煙(排ガス)対策が必要である。
Aごみを専用燃料として用いる施設において,その事業体が扱う処理量のほぼ全量を燃料源とするような場合は“ごみの減量化”に逆行する恐れがあり望ましくない。
発電事業を行うには,現状では,200トン/日の燃焼量が必要と言われており,大量の(数百トン/日以上)ごみを処理する事業体がその処理量の一部をエネルギー資源として扱う場合に対象となりうるものであろうが,当行政区では“ごみの減量化”に逆行するものになると判断される。
・U−A−2:
これについても,温水供給を主たるものとすると,前段と同様の問題が生じる。
・U−B−2:
燃料化したごみ(RDF)を燃料として用いることのできる施設があればよいが,現時点ではこれを使ってくれる施設の目途が立たない。
・U−C:
実用に到っているとは言いがたい。
以上より,CaseTのBを組み合わせたものが良いと判断される。それぞれについて,今後,下記の項目等について細部の検討が必要である。
要検討項目等:
全体 :?
|
焼却灰の発生量は?(A=B2=B3の場合/B1の場合) |
T−B−1:?
|
溶融スラグの利用はあるか。 |
|
埋立ての場合→
汚水処理施設の負担は軽減 & 体積減少(1/2〜1/3) |
T−B−2:?
|
可能な発電量は? |
|
註 施設及び地域で使用する。余れば売電する。 |
T−B−3:?
|
可能な給湯量は? |
|
註 24h稼動であれば定常的に供給可能 |
なお,焼却炉とそれに付加する機能や設備等は,現在,急速に進歩している最中であり,実際に施設を構築する際には,その時点での最新最良の情報に基づいて検討する必要がある。
2−3 埋立て処理施設
汚染水による周辺環境への影響,焼却灰等の飛散対策など検討すべき項目は多数あるが,今回のまとめでは取り扱わず,今後の検討課題とする。
なお,周辺環境への影響を少なくするため施設に屋根をつける方法もあることを付記しておく。
3.立地条件調査
以下の項目について調査検討を行う。
・自然環境
地質構造(断層,地滑り),地形,地盤強度,地下水・湧水の状況,植生,留意すべき生物,気象状況(風向,降水など)
・水利用の状況
河川等水利用の現況と施設が利用可能な水量
・土地利用状況
一般的土地利用状況(田畑,学校,病院等)
遺跡・文化財等の分布状況
・ゴミ搬送路の状況(道路状況)
居住空間に融和した施設とするにしても,搬入路は生活道路と隔離する。
ゴミ発生状況(量・質・距離)との対応
条件調査の概要
立地候補地選定あたって,地質構造(断層,地滑り),地形,地盤強度,地下水等の状態,植生,留意すべき生物の分布,気象状況等の自然条件を項目として検討するが,土地利用状況や,道路状況等の社会条件も切り離しては考えられない項目である。また,遺跡・文化財の有無も考慮に入れなければならない。
これらの項目の全てを対象地域全域に渡って詳細に検討することは非現実的であり,いくつかの比較的広い範囲の候補地域を選定し,その中で詳細な検討を行うのが適切である。
以下に,塩谷広域からの廃棄物の収集・移送すなわち道路網条件を念頭に置きつつ,地形・地質的特徴を考慮した大まかな範囲での候補地域の選定を行った結果について述べる。
1.高根沢町
中央部に南北に広がる低地(“芳賀低地”)があり,東縁部は丘陵地(“喜連川丘陵”)となっている。低地の西側には低地より15〜20m高い台地(“宝積寺台地”)が南北に伸びており,その西は鬼怒川沿いの低地となっている。
“芳賀低地”は厚さ1〜0.5mのローム層(田原ローム層,0.5〜0.2mの今市軽石層を含む)が乗る低位洪積段丘と沖積砂礫層の作る低位面からなっている。両面の高度差は1m未満である。沖積砂礫層の厚さは,全体として5m未満でその下に洪積砂礫層が存在する。洪積砂礫層の厚さは5〜150mと地域により大きく異なっている。
“喜連川丘陵”は,100〜150万年前に堆積した砂礫層の上に数十メートルの厚さのローム層が重なった台地を後の河川が浸蝕することによって作られた丘陵で,この地域では,“芳賀低地”の地表面より20〜30m高い位置に砂礫層の上限(砂礫層とその上に重なる古期ローム層との境界)がみられる。
“宝積寺台地”はおよそ15万年前に堆積した砂礫層の上に宝積寺ローム層・宝木ローム層・田原ローム層が重なっている。ローム層の総層厚は約25mである。宝積寺台地の端部は急峻な段差(斜面)を形成している。
ロ−ム層は不透水性であるのに対して,沖積砂礫層の透水性は極めて高いという特徴を有する。地下水位は,おおむね,芳賀低地の地表面下1〜3m程度の高度にあり,地形面と平行に南へ漸次低下している。
全般的に地盤の耐荷力が問題となることは少ない。確認断層は存在しない地域である。
高根沢町内では,段差(急斜面)地を除けば,自然条件そのものから不適切と判断すべきところはない。道路アクセス条件を考慮すると以下の2地区が考えられる。
高根沢町北西部地区
国道4号線に近く,アクセスしやすい。
表面は1〜2mの沖積砂礫層で,下部は15〜20mの洪積砂礫層。
平坦で,田・畑として土地利用されている。
地下水位が高い。
高根沢町北東部地区
砂部工業団地に近い。
表面は田原ローム層を乗せる洪積砂礫層あるいは4m未満の沖積砂礫層で,下部は15〜20mの洪積砂礫層。
平坦で,田・畑として土地利用されている。
地下水位が高い。
なお,“宝積寺台地”,“喜連川丘陵”はそのローム層の不透水性を生かした活用が考えられる。
2.喜連川町
全体として,100〜150万年前に堆積した砂礫層と古期ロームからなる丘陵地内を,幾つかの河川が南北に削り込んだ河川(荒川・内川・江川)が流れる地形をなしている。河川流域には,厚さ3〜5mの沖積砂礫層が存在する。
丘陵地をなすローム層は不透水性であるが,砂礫層の透水性は高い。地下水位は現河川の水位に一致すると考えられる。地盤支持特性と安定性は良好である。
地滑り地は存在せず,砂礫層を切る断層も存在しない地域である。
現施設からの距離を考慮して,江川よりも東側を前提とした。また,穂積・鹿子畑等の東部地区は,地域全体から見てのアクセスの難易度から離れすぎと考えた。交通アクセスが容易で,平坦地を確保し易い喜連川町北部地区を候補地区とした。
喜連川町北部地区
標高約180m付近(河川沿いの平坦地とほぼ同じ高度)より下位は砂礫層,上位は古期ローム層からなり,地盤の安定性が高い。
道路沿いには集落が点在するが,主として森林・田・畑として土地利用されている。
3.塩谷町
塩谷町は,地形・地質的特徴から,玉生付近を境として東西に2分できる。
玉生の東は,地滑りや断層の存在しない平坦地と丘陵地である。平坦地は,荒川の西に広がり,厚さ15m程度の沖積砂礫層からなる。その下には第三紀の地層が存在する。透水性が良く,地下水位は地表面下5〜10mである。地盤の支持特性も高い。丘陵地は,荒川の東に分布し,標高200〜240mより下位には第三紀層が,その上位には100〜150万年前に堆積した砂礫層と古期ロームが重なっている。ローム層の透水性は低く,地下水位は,第三紀層の上面の若干上位にあり,沖積平地部より高い。なお,地盤の支持力が問題となることはない。主として,田・畑に利用されており,丘陵地は林地となっている。
玉生より西は,主として2000〜1000万年前に堆積した第三紀の火山性の岩石からなる。急峻な地形が多く,崖崩れ地,断層も存在する。断層破砕部が発達した地域や熱水鉱化作用受けた地域は岩盤強度が低く,地滑りの危険性も高い。比較的安定な軽石凝灰岩が分布する地区や洪積砂礫層が分布する地区もある。この地区に廃棄物処理施設の設置を計画する際には,地質の詳細について調査し,設置に適した場所を選定する必要がある。
なお,北部は高原山およびその山麓で,水源涵養地となっており,一部は国立公園に指定されている。
以上を,考慮すると,候補地としては,交通アクセスを考慮しても,塩谷町東南部地区が適当と考える。
塩谷町東南部地区
平坦地は沖積砂礫層からなり,地盤の安定性は高い。丘陵地は,標高200〜240mより下位には第三紀層が,その上位には100〜150万年前に堆積した砂礫層と古期ロームが重なっている。
条件調査(概要)への付記
選定した4候補地域について,概略的ではあるが,以下の仮定に基づいて,廃棄物発生量と運搬距離からみた評価を行った。
この評価は,ごみ発生地から処理施設までの距離に発生量(運搬量)を乗じた値の総和(ごみの運搬コストに1次近似)が小さい施設ほど適していると評価するものである。
なお,参考のため現施設に係る値も表示してある。
仮定1;各市町のごみ発生の重心は、市役所・町役場にあるとする。
仮定2:処理施設の位置はそれぞれの候補地の中心位置にあるとする。
ごみ発生量 (平成13年度;トン)
|
可燃物 (%)
|
不燃物
|
粗大物
|
合 計 (%)
|
矢 板
|
8,427
(35.7)
|
1,269
|
198
|
9,894
(35.1)
|
塩 谷
|
1,880 (
8.0)
|
472
|
42
|
2,394 (
8.5)
|
氏 家
|
6,764
(28.7)
|
1,010
|
173
|
7,947
(28.2)
|
喜連川
|
2,590
(11.0)
|
411
|
58
|
3,059 (10.8)
|
高根沢
|
3,927
(16.6)
|
864
|
106
|
4,897
(17.4)
|
運搬距離 (km)
|
A
|
B
|
C
|
D
|
現施設
|
矢 板
|
19
|
22
|
8
|
7
|
9.2
|
塩 谷
|
19
|
23
|
14
|
3
|
12.3
|
氏 家
|
5
|
9
|
11
|
12
|
5.6
|
喜連川
|
9
|
10
|
7
|
14
|
4.4
|
高根沢
|
2
|
5
|
16
|
18
|
11.5
|
A:高根沢町北西部 B:高根沢町北東部 C:喜連川町北部 D:塩谷町東南部
ごみ発生量(%)×運搬距離
|
重み
|
A
|
B
|
C
|
D
|
現施設
|
矢 板
|
0.351
|
6.67
|
7.72
|
2.81
|
2.46
|
3.23
|
塩 谷
|
0.085
|
1.62
|
1.96
|
1.19
|
0.26
|
1.05
|
氏 家
|
0.282
|
1.41
|
2.54
|
3.10
|
3.38
|
1.58
|
喜連川
|
0.108
|
0.97
|
1.08
|
0.76
|
1.51
|
0.48
|
高根沢
|
0.174
|
0.35
|
0.87
|
2.78
|
3.13
|
2.00
|
合 計
|
|
11.0
|
14.2
|
10.6
|
10.7
|
8.3
|
この評価表の数値で見ると,4候補地域の中では高根沢町北東部地区(B)の値が高く,他の3地区にはほとんど差は無い。仮定した条件が非常に大まかであることを考慮すると,差は無いと言ってよい。