本報告書の「はじめに」において、ごみ問題に対する基本的考えを次のように提起した。
(1)ごみは,人間が生活することによって生じる不要物であること。
(2)ごみの発生量が増大し、自然界への還元が困難になっていること。
したがって,ごみ処理対策の基本的考え方は、
1)ごみをつくらない(ごみの発生を可能な限りゼロにする)。
2)再利用できるものはごみから除外する。
3)それでも残る不要物を焼却し、埋め立てる焼却灰を減量する。
4)発生した焼却灰も可能な限り再利用する。
この基本的な考えに基づいて、自然科学的視点からの分析、社会科学的視点からの分析を試みた。後者については、適地選定の新しい試みとして、ポジティブ評価の分析枠組みを構築し、それに基づいて地区選定の評価を実施した。これらの分析結果は本報告書で明らかにした通りである。その結果を踏まえて、塩谷広域行政組合を構成している1市4町の協議で、高根沢町が次期のごみ処理施設受け入れを表明し、最終的に決定した。
新施設の稼動が10年後とはいえ、十分な時間があるということでは必ずしもなく,かつそこに至る過程は決して平坦なものではないと予想される。本報告書において、仮に高根沢地区が選定されるとすれば、適地として下記の2地区が考えられる。
(1)
高根沢町北西部地区
(2)
高根沢町北東部地区
これらの地区のどの地区に絞り込んでいくのかは、今後の自然科学的、社会科学的分析を待つほかはない。更に言えば、地区の絞込みに劣らず重要な問題は、1市4町が環境問題にどのように取り組み、地域としてどのような循環型社会を形成していくのかのビジョンづくりとそれを踏まえた具体的計画の策定・実施である。ごみ問題は循環型社会形成の中の大きな要素としてある。
本報告書では、塩谷広域行政組合がごみ問題をめぐって大きなエネルギーを費やしてきたことを分析した。この経験を無駄にしないためにはどのようにすればよいのか,について一定の提言を試みた。上記したごみ問題に対する基本的な考えを踏まえて、
(1)
ごみ処理施設を「迷惑施設」などと言わずに、むしろポジティブな姿勢で「活用していく」という思考の転換を図る。
(2)
塩谷広域行政組合と住民は,「ごみは自分達の問題」という認識に到達するまで徹底した啓発運動に協働で取り組むこと。
(3)
協働の取り組みのための組織づくりには,「異なる考えの者を排除せず」を原則としなければならない。
(4)
上記した組織をつくり、循環型社会形成のビジョンの構築とそれに基づいた計画の策定・実施に向かうためには、住民参画と情報公開を,行政が住民に完全に保障し、住民もそれを絶えず確認する作業を行う。
(5)
出た結論については,双方が責任を負うという原則を相互に認知する必要がある。
これらを要約すれば、住民参画、情報公開、相互責任そして思考の転換である。
塩谷広域行政組合の試みは、県内ばかりでなく全国的にも非常に強い関心
をよんでいる。それだけごみ問題の解決が困難であることを示している。塩谷広域行政組合のこの試みが成功するかどうかは,日本のごみ問題、環境問題を左右するといっても過言ではない。